伝説・和尚に助けられた河童
むかし、柳瀬川(やなせがわ)にすむ河童が馬や人間をおそうことがよくあった。あるとき、15、6歳になる寺の小僧が馬を水あびさせようと、馬にまたがって川の中に乗り入れた。ところが、馬が急におどろいて川から飛び出したため、小僧は川の近くの田んぼの中にふり落とされてしまった。小僧は田んぼからはい上がると、馬のあとを追いかけて、寺の馬小屋に着くと、馬が異常に興奮しており、不振に思って馬のまわりを見ると、10歳くらいの子どものような格好をしたものがいた。
小僧の手にからんできたのを隅の方に連れて行って捕まえてみると、それは河童だった。
馬にかなり踏まれて弱っている河童を馬小屋の外に引きずり出したところ、近所の人たちも集まってきて、「柳瀬川で悪さをしているのはこいつだろう」「焼き殺せ」といって、大勢で積み上げた薪(まき)に火をつけはじめた。
河童は自分が焼き殺されることを知って涙を流し、手をあわせてまわりの人たちに許しを乞(こ)うた。
騒ぎを聞きつけて庫裡(くり)から出てきた寺の和尚は、このようすを見て河童をふびんに思い、人々に命乞いをしたり、弟子にしてやろうと衣を河童の体にかけてやった。
そして、「今後はぜったいに人や馬に危害を加えてはいけないよ」というと、河童は今までの自分の行いを悔い、地面にひれ伏して泣いた。
これを見た人々は河童をかわいそうに思い、川のほとりまで連れて行って川にはなしてやると、河童は泣きながら水の中に帰っていった。
その翌朝、命を助けてもらったお礼のつもりか、和尚の寝ているまくらもとに、鮒(ふな)が2匹置いてあった。
また、この事件があってから、柳瀬川で人や馬が行方不明になることがなくなった。
『しきふるさと史話』神山健吉氏記述より
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